阿佐海岸鉄道 ASA-300形

写真: ASA301

徳島から南に向かう牟岐線の終点海部から、更に2駅だけ延びる阿佐海岸鉄道。当初は国鉄阿佐線として建設が始まった路線ですが、営業区間である海部~甲浦間の8.5kmも国鉄時代の工事凍結までに概ね出来上がっていたから開業させただけという印象。高知県側の土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線が沿線にも一定の人口があるのとは状況が大きく異なり、1992年の開業から慢性的な赤字が続いていました。
車両は土佐くろしお鉄道TKT-8000形をベースにしたASA-100・200形各1両でしたが、2008年に起きた事故でASA-200形が事故廃車。当面はJRからキハ40形を借りて急場を凌ぎ、翌年には2005年の台風被害から復旧することなく前年廃線になった高千穂鉄道から高千穂鉄道のTR-200形を購入。新潟鐵工所製の「NDC」で多少の整備は行ったものの大きな改造なく入線、当初は塗装もそのままにASA-300形としてデビューしました。翌年には塗装を変え、徳島県のキャラクター「すだちくん」と東洋町のキャラクター「ぽんかんくん」の柑橘類コンビが描かれています。

生え抜きのASA-100形と共に同社線と牟岐線牟岐までの運用に充当されていましたが、両車とも製造から30年が経過しようとするところで選ばれた代替車はJR北海道が開発したものの実用化を断念したDMV(デュアル・モード・ビークル)でした。牟岐線の阿波海南~海部も同社に編入、終点甲浦にもモードチェンジの設備を設けるなど大きな変革を伴い2021年夏のDMV化を目指します。一方既存車はDMV化に伴う各種工事の兼ね合いから2020年11月末で営業を終了、ASA-100形は保存されるような話ですがこちらはどうなるでしょう…


ASA300-車内全景

まずは車内全景から、どうも頭上が気になりますがそれは後ほど。16メートル級の車体は新潟鐵工所製の軽快気動車標準ですが、高千穂時代にイベント車として製造された経緯からオールクロスシートとされています。

ASA300-車端部

車端部です。運転室は半室ですが仕切は扉の高さまでしかなく、左上の冷房の風洞がそのまま運転室まで伸びています。仕切窓には左上から時計回りに「鉄カード」の案内、禁煙ステッカー、各種グッズの案内、運転免許自主返納者への案内と盛り沢山、運転台の様子は覗けそうにありません。

ASA300-TV

車端部には運賃表示機を設置…と思いきや運賃箱上のそれはブラウン管テレビでした。元々イベント対応車とのことでビデオデッキやレーザーディスクカラオケが搭載されていたとの由、もっとも路線長のある高千穂鉄道ならともかく全長10kmに満たない阿佐海岸鉄道では使用機会は無いでしょうし、そもそも動くのかどうか… 右手には運賃表を含む案内を掲出していますがどう見ても運賃表示機の形状、剥がすと高千穂時代の駅名が出てくるのでしょうか。

ASA300-運賃箱

運賃箱や整理券発行機もあるにはあるのですが、前者はカバーを、後者に至っては黒のテープを巻き付けるという些か乱暴にも見える方法で使用を停止しています。

ASA300-両替機

先程の運賃箱には「自動両替器付」とありましたが、どういう訳か「Money Changing Machine Ver.2」なる縦長の両替機も設置されています。ただこちらも使用停止で、駅・車内とも運賃支払時にお釣りを受け取る運用をしていました。

ASA300-扉

扉は900mmの折戸でステップ付き。

ASA300-天井1ASA300-天井3

天井です。照明はカバー付きで中央に1列、両側は風洞が張り出しています。乗車時は全体に電飾が設けられており、トンネルが多い同線だけに効果は抜群でした。ただ仮にも照明が点いているのにこれだけ電飾が映えるというのはどうしてでしょう、確かに元々暗めではあるでしょうがここまででは無いはずで…

ASA300-床

床はクリーム色の単色。

ASA300-窓ASA300-窓2

窓は二段式、開閉可能のようです。カーテンは軽快気動車では標準な感もある横引き式、窓下テーブルも設置しています。更にその下には灰皿の痕でしょうかビス穴が残っています。乗車時には山側に簾が掛けられており、沿線の小学生による俳句が掲げられていました。

ASA300-座席1ASA300-座席2

座席はクロスシートの1種類のみ。バケット形状を意識した座席はこの時期の新潟鐵工所製軽快気動車の標準で、ボックスシートを前提としない固定クロスシートを向かい合わせに配置している点が特徴です。背中合わせの座席を結び付けているのは僅かに通路側の取っ手のみ、脚形状を見ても分かる通りそれぞれ独立しています。ボックスシートの端もこの座席を片方だけ置けば済みますし、その気になれば集団見合い式のようなことも出来るんですね。ボックスピッチは1525mmですが、このやり方をする以上背摺りは通常のボックスシートに比べると厚くなってしまいます。

掛け心地は軽快気動車にしては珍しく幾分硬めな印象ですが、それを気にするまでも無く終点に着いてしまいます。

ASA300-車椅子スペース

車椅子スペースも設置されています。これは恐らく後付けで、壁には灰皿やテーブルの痕と思しきビス穴が見えます。社名の通り海岸を走る当路線、座席と仕切の間には避難用梯子を設けています。


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最終更新:2020/12/26

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