近鉄20000系「楽」|FTN trainseat.net

近鉄20000系「楽」

写真: PL01(20101)

近鉄の団体専用車としては京都線から伊勢方面への特急車として製造された18200系を転用した「あおぞらII」が主に活躍していましたが、1990年には団体車のシンボルカー的な位置づけの車両として20000系「楽」を新造しました。塗装は黄色と白のツートンを軸に塗り分け線を灰色、また扉付近は灰色やオレンジ色を用いた新鮮なもの。そして最大の特徴は制御車とした先頭車を2階建て、電動車の中間車をハイデッカー構造とし眺望を確保した点でしょう。断面としては全車が2階建て車並みとあって珍しさとともに存在感は十分、しかし団体専用車とあって乗車のハードルが高いのが難しいところ。1編成のみの存在で、標準軌各線の団体貸切列車で運用されています。

今回は2019年5月、車内撮影を目的の一つとした団体臨時列車に参加させて頂きその車内を記録しました。企画・運営された皆様にはこの場を借りて御礼申し上げます。この経緯もあって、通常では中々見られない角度の写真も含め写真多めでお届けします。


■先頭車階上席■

2000A-車内全景32000A-車内全景

まずは車内全景から。光の加減で暗くなってしまいましたが、モノトーンな中に赤い枕カバーが映えます。天井高さは1970mmと30000系よりは低め、身長の低い自分はそこまででもありませんでしたが、人によっては圧迫感を覚えるかもしれません。

2000A-車内全景2

通常には無い視点、展望席の最前列から乗降扉方向を高い位置から眺めます。階段状に並ぶ展望席の配置がよく分かります。

2000A-車端部

端部です。デッキとの仕切戸は無く、向かって左側は恐らく機器箱になっているかと思います。

2000A-号車表示

向かって右側には案内表示機を設置。号車表示・禁煙表示・化粧室使用状況が表示されますが、最後は兎も角前二者は「こんな大仰なものでなくても良いのでは」と思われる方もあるかもしれません。しかし号車表示は何とこの出で立ちで他編成併結可能という性格から電光式が妥当、禁煙表示も貸切列車の性格から喫煙・禁煙を分けることを想定してのものでしょう。尤も現在は灰皿が埋め込まれ常に全車禁煙なのですが…

2000A-乗務員室仕切2000A-前面展望

乗務員室仕切…というか展望席です。眺望に配慮し大きな窓を使用、更に仕切戸は全面ガラス製としています。窓側は柱がありますので、どちらかと言うと通路側席の方が遮る物無く眺望を楽しむことが出来るでしょうか。また二段屋根の表現が妥当なのか分かりませんが、通路部の屋根が一段高くなった構造になっており、その端部に窓を設け光を取り入れます。

2000A-天井

天井は通路部を一段高く取っており、荷棚下部を主照明としつつも概ね座席と同一の間隔で荷棚内にも灯具を設置、天井面に照らすことでアクセントとしています。

2000A-床

床敷物も灰色系。絨毯を敷き詰め高級感だけではなく階下席への足音の低減にも貢献、また荷物置場に乏しい構造故か床に荷物を置くことも想定しているようです。

2000A-窓2000A-荷棚

側窓は2席で1枚、カーテンは横引き式です。窓間の柱には空調吹き出し口を設けたほか、荷棚にはスポットクーラーを設置しています。

2000A-展望席窓

展望席部は側窓も大きく取っています。

2000A-座席12000A-座席1展開

座席は転換クロスシートを特急車並みの980mm間隔で配置。長時間乗車を想定してか座面はバケット形状を意識したもの、背摺りは頭部の詰め物を厚めにしています。肩部の取っ手は上部を曲げた「棒」のようなもの、立席を想定する必要はありませんので思い切った形状を採用しています。

5200系に比べ全体的に直線的な印象でしょうか、たぶんそれとは根本的に別物なのでしょうが、唯一通路側の肘掛だけは(不思議なものが埋め込まれている以外)形状が似ているような気がします。

2000A-Tバー2000A-Tバー展開

肘掛に埋め込まれた不思議なもの、その正体は簡易補助席「T-Bar」です。どこから出たアイデアか分かりませんが発想としてはバスの補助席に近いもの、ただバスとは異なり両方向に進みますから背摺りは設けることが出来ません。両側を展開しての使用が前提かと思われますが、先頭車は階段付近などに片側しか無い部分もあります。座り心地は推して量るべし、ただ転換座席と組み合わせて10人が向かい合うことが出来るのは他に無い特徴と言えましょうか。ご覧の通り基本的には展開状態で保持できますが、経年か畳まれてしまうものもありました。

このような通路部の補助座席、鉄道車両ではまずお目に掛かれない設備ではありますが、1970年代の富山地鉄14710形で類似例があったようです。写真は見たことありませんが、一体どんなものだったのでしょう…

2000A-座席固定2000A-座席固定背面

展望席部は階段状になっていますから固定座席としています。背摺りは頭部形状や背面が異なる独自のものですが、基本的には転換座席をベースとした構造です。

2000A-座席枕カバー

モケットは遠目だと灰色に見えますが赤や緑なども織り込んだ複雑な色合い、枕カバーは「楽」のロゴが入ったものを用いています。

2000A-中央階段2000A-中央階段2

さて階下席はそう広いものでは無い訳ですが、階上席と階下席を直接行き来できる階段を設けている点が特徴です。座席3列分を潰して階段を設けた格好で、その部分は荷棚と天井の灯具が省略されています。

2000A-中央階段3

階段を下りて階下席に行ってみましょう。


■先頭車階下席■

2000AD-全景

階下席の全景です。こちらは転換座席7脚、定員14人の小ぢんまりした空間です。

2000AD-端部12000AD-端部2

続いて端部は左は乗降扉寄り、右は車両中央寄りです。いずれも向かって右側に階段を設けており、2階席から階下席を経由し乗降扉に出ることも可能です。製造時の紹介記事を見ると、恐らく右写真の青い壁の部分にカラオケ装置・テレビ・ビデオを設けていたようで、それこそカラオケルーム然とした使用を想定していたようです。撤去時期は不明ですが、機器老朽化の際に更新せず外してしまったような形でしょうか。

2000AD-号車表示

乗降扉寄り仕切部には情報案内装置を設置、写真では片方の化粧室が使用中のようです。

2000AD-天井2000AD-窓

天井は2階席もありますから平面状、高さは1850mmと階上席より低くなっています。窓は下端がホームと同一面になるような高さで、カーテンは横引き式です。照明は荷棚下部と荷棚上に設置されています。

2000AD-床

床はやはり全体が絨毯張り、座席部が一段高くなっています。

2000AD-座席

階下席も転換座席を設置していますが、モケットは灰緑色で模様も異なるほか、枕カバーは黄色としています。

2000AD-テーブル

先頭車・中間車ともに高床部の座席は窓側肘掛を窓框で代用するような設計ですが、階下席ではレール方向全体に肘掛状の張り出しを設けました。更に同一高さでテーブルも設けています。壁に設置されている小さい銀色の物はマイクです。


■先頭車サロン席■

2000AS-サロン12000A-号車表示2

先頭車の車端部には長時間乗車の息抜きスペース、また幹事席的な使用を想定したサロン席を設けています。乗降扉部分との仕切は中央付近を目線の高さを半透明としたガラス製としたほか、情報案内装置も設置されています。

2000AS-座席緑2000AS-座席緑2
2000AS-座席赤12000AS-座席赤2

このサロン席はソファをL字型に設けた構成、枕カバーは7人分ありますがその通り座るとかなり窮屈になります。両先頭車に設けられているのですが、ご覧のようにモケットや化粧板の色が異なっており随分と印象が異なります。なお上は伊勢方先頭車、下は大阪・名古屋方先頭車です。

2000AS-テーブル2000AS-放送装置

中央部にはテーブルとキャビネットを設けています。後者は通路との仕切が主な役目ではありますが、下部には車内放送に使用できる放送装置が備わっています。この辺り「幹事席」での使用を想定していることが分かります。乗車時は名古屋方先頭車のマイクが故障していましたが…

2000AS-窓

背摺りの高いソファに対応して窓は小さめ。よく見ると巻き上げ式カーテンがあるようですね、写真は撮り損ねました…

2000AS-天井

天井は平面的、照明はスポット照明を多用しています。そういえばサロンの区画は化粧板の押さえ金に金色を用いており、他とはまた違う雰囲気を醸し出します。

2000AS-補助席

通路側には補助座席を設けています。

2000AS-補助席赤2000AS-補助席緑

その補助座席はサロンの座席とモケットを合わせています。階上席のT-Barと同様の発想なのかと思いましたが、ここは中央部のキャビネットに壁がありますので10人が囲んで…というのは些か無理がありそう。また経年か座面が手前に傾いているものもあり、状態は決して良いとは言えない印象でした。

2000AS-車端部

車端部は機器箱を設けており貫通扉は一段奥まった場所にあります。扉は自動扉です。


■中間車■

2000B-車内全景2000B-車内全景2

車内全景、左は乗降扉寄りから、右は編成中央部寄りからの様子です。先頭車のダブルデッカーに対しこちらはハイデッカー車、天井高さ2250mmは近鉄の一般車と同等かそれ以上のようです。

2000B-車端部12000B-車端部2

端部です。左は乗降扉寄りで、先頭車同様に仕切戸はありません。一方編成中央部寄りは隣車と階段を下りること無く繋がっており、ガラス張りの妻扉を設け一体感を保ちつつ静粛性を確保しています。

2000B-号車表示22000B-号車表示

情報案内装置は両車端に設置していますが、乗降扉寄りにあるトイレ使用状況灯が編成中央部寄りにはありません。

2000B-窓2000B-荷棚

窓は床高さが下がった分下方に拡大されており、ワイドな眺望が楽しめます。カーテンはこちらも横引き式。先頭車同様荷棚には照明とスポットクーラーを設置しています。

2000B-天井

天井です。中央部が高い構造は先頭車と同様ながら、余裕のある天井高さを生かして荷棚上の照明を連続して設置し間接照明然としています。それでも照度としては補助的な役割に過ぎず、主照明は荷棚下のものと言えましょう。

2000B-床

床はこちらも全面絨毯張り。

2000B-座席2000B-座席向かい合わせ

座席は先頭車階上席と同様ですが、モケットと枕カバーは先頭車階下席と同様。シートピッチは先頭車に比べ狭めで、5200系と同等の910mmです。右写真は向かい合わせにした様子ですが、これを撮ろうとすると固定式のテーブルが何とも言えぬ位置にあって(以下略

2000B-テーブル

先頭車・中間車とも窓側には転換座席の車両にしては大きな固定テーブルを設けています。

2000B-Tバー2000B-座席肘掛

中間車にも「T-Bar」を設置、先頭車の項でも書きましたが長く座るものではありません。肘掛は何か塞いだ様子がありますが、これは灰皿を塞ぎ禁煙にした経緯によるものです。

2000B-Tバー全展開22000B-Tバー全展開

怒涛のT-Bar全展開の図。


■デッキ・付帯設備■

2000A-扉2000B-扉

側扉は両開き、通勤電車と同じ1300mm幅として滞りなく乗降できるよう配慮しています。営団6000系や201系の如く高い位置に設けられた扉窓ですが、外観への配慮で中間車の客席窓下端に高さを合わせた結果のようです。左は先頭車、右は中間車の様子ですが、特に後者はこれだけの幅があって周りが壁というのも中々珍しいような気はします。ここに滞留する場面は乗降時以外基本的に無いはずのでそう問題ない訳ですが、頑張れば20人弱がこの空間に収まることが出来ます(経験談)。

2000A-ゴミ箱

デッキには特急車並みの大型ごみ箱を設置、写真は先頭車のものです。

2000A-階段

先頭車は上下階への階段が伸びていますが、30000系ビスタカーと同様に直線的な階段の配置です。

2000AD-階段装飾

階段を下りるところには謎の装飾。以前ここには公衆電話を設けていたようですが、現在は撤去されています。

2000-トイレ12000-トイレ2

トイレは中間車の乗降扉横、先頭車との連結面寄りに洋式・和式を1つずつ設けています。

2000-トイレ32000-トイレ4

こちらは和式。なお独立した洗面所はありません。


2000A-運転台

運転台は同時期の一般車とも特急車とも異なるレイアウトに見えます。機会が滅多に無いとは言え、一応前面貫通式ですからコンパクトな造りです。

座席系

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