JR東海 N700S(16両編成・普通車)
2020年春のダイヤ改正では、全列車が高加減速のN700系(2000・5000番代)/N700A(1000・4000番代)に統一されたことにより「のぞみ」1時間最大12本運転を可能にしました。一方でN700系は量産車登場から13年が経過しており、久々のフルモデルチェンジ車として同年7月に「N700S」がデビューしました。
引き続きN700を冠してはいるものの、従来のN700は普通車が「78*形」だったところ「74*形」を名乗ることからも分かるように全く別物と考えた方が良さそう。車体スタイルは前頭部の両脇を立てた新形状で灯具の拡大を実施、前頭部のみ従来より高い位置にも青帯が入った点も目立ちます。足回りでは通勤電車並みの高加減速や車体傾斜装置の採用はそのまま、新技術を取り入れた制御装置の採用で小型軽量化し機器構成が大きく変更されたほか、大容量のリチウムイオン電池を搭載することで非常時に最低限の自力走行を可能としています。
2020年7月の営業運転開始時点では4編成を投入しましたが、2007年~2012年製造のN700系(2000番代)を置き換えるべく順次増備が進むようです。専用ダイヤは設けられていないので「ひかり」「こだま」への充当も当初から見られ、2020年8月現在では翌日の運行予定が公式Twitterにて発表されています。管理人は帰省の折に1駅だけ乗車する機会を得ましたので、主に1~3号車の様子をご紹介します(車椅子対応設備等はまたそのうち…)。
■普通車■
まずは車内全景から。暖色系の空間に青いモケットの組み合わせはN700系(0・3000番代)以降一貫していますが、窓や天井周りの構造を一新した結果レール方向への流れを強く感じるデザインとなりました。
デッキ仕切はN700系を踏襲したようで大きな変化は見受けられませんが、扉と右側広告枠の間に非常通話装置を新設。乗務員だけでなく指令所員との通話も可能で、車内防犯カメラとも連動しているようです。
情報案内装置は液晶式として更に大型化していますが、表示スタイルはLED式の延長線上にある感じで実に見やすく仕上がっています。別枠としていた座席指定区分や号車表示も同一画面による表示に変更、右写真の現在走行位置表示は従来なかった案内で目新しいかもしれません。
天井です。照明は300系以来となる間接式を採用、もちろん十分な照度を確保しています。間接照明化による樹脂製部品(カバー)の排除が目的の一つだったようですが、同じような話は阪急電車でも聞いたような気がします。枕木方向に所々模様が入っていますが、手前のそれは防犯カメラを埋め込んでいるため少し目立っています。
床敷物は引き続き茶系ながら、通路部は枯山水の庭園に入れられた砂紋を連想させる模様が入ります。
側窓は引き続き小さめ、カーテンはフリーストップ式です。窓框のテーブルは従来より大型化されており、カーテンを閉めた状態でも飲料程度なら置くことが出来るようになりました。荷棚は各席上に設けられていた窓が廃止され、窓上に貼っていた座席番号ステッカーが荷棚前端に移ってきています。
窓回りでは窓部と柱部に分かれたパネルが目立ちますが、実は後者の上端と荷棚の間が本形式の空調吹出口となっています。確かに割と目立っていた700系やN700系の柱部荷棚下にあった空調吹出し口は姿を消しているほか、N700系の荷棚と側壁パネルの間にあった乗客が吹出角度を調節できるスポット空調も廃止されています。
座席に入りましょう、まずは海側の3人掛けから。本形式の座席の特徴は「全席にコンセント設置」と「座面チルト機構の採用」が挙げられるかと思います。N700系では仕切テーブルと全窓側席の壁側に設けられていたコンセントですが、本形式ではこれらを廃止し全て座席に取付としました。また座面チルト機構は東海道新幹線の普通席では初お目見え、写真で見ると思いの外しっかりチルトしている様子が見て取れます。背摺りはN700A(1000・4000番代)に続き、上部両脇の張り出しを大きくして頭部を受け止めることが出来る造りです。シートピッチは1040mmが基本ですが、本形式では先頭車に加え車椅子スペースを確保するため11号車も1023mm間隔としています。
モケットは鮮やかな青系でN700A(1000・4000番代)と同じく横方向への細かなラインが入っていますが、随所に山型の模様を入れアクセントとしています。またこのモケットは水に濡れると縦方向のラインが浮かび上がる造りとして、折り返し清掃時などの際汚れに気付きやすくしています。
山側は2人掛け。車椅子スペースを設けた11号車東京方は海側にも2人掛けを設置していますが、こちらは車椅子利用を想定し両端肘掛を跳ね上げ式としています。
15分足らずの乗車では気付かない点も沢山あるかと思いますが、座面はN700A(1000・4000番代)同様の素材のようで割と硬め。座面チルト機構は自然と傾いていきますが、個人的には復帰時に元に戻る際の印象の方が強め。また座面チルト機構との兼ね合いもあるのか、従来車に比べリクライニング復帰の動作が従来より少し遅いような気がします。
肘掛は従来に比べ曲線的で、先端にコンセントを設置した関係からリクライニングレバーも新形状になりました。あまり見かけない形状ながら操作性は良好。コンセントは全席とも肘掛先端に設置されていますが、携帯電話充電器はともかくパソコン用となると場合によってはリクライニングレバーと干渉するようなことがあるかもしれません。内側にはコンセントの通電状況を示すであろう小さなランプが埋め込まれています。
座席背面には新たな装備として各席ともフックが設けられました。肘掛のみならずテーブルや肩握り等も含め、樹脂パーツが軒並み灰色から白に近い明るい色に変更されていることに気付きます。テーブルの案内には当初から運行情報サイトのQRコードやWi-Fiの案内が盛り込まれています。
仕切テーブルはA4サイズのパソコンに対応した大型のもの。背面テーブルと同様車内の案内ステッカーが追加された一方、コンセントは座席に設けたため省略されています。なお指定席時の最後部席と仕切の間のスペースは2020年5月に運用開始となった予約制の特大荷物スペースとされており、本形式では当初から床にその旨ステッカーが貼られています。
■デッキ・その他設備■
普通車のデッキは銀色系でまとめています。N700系では扉も同色に仕上げていましたが、本形式は白に近い明るめの色としています。鴨居部の防犯カメラはN700系(0・3000番代)から設置されていますが、この手の装備が一般化したということなのか「防犯カメラ作動中」のステッカーは無くなりました。
便洗面所は奇数号車の東京方に設置されています。洗面台はN700系の1号車を除き1両2か所が定石でしたが、N700Sでは荷物コーナー設置のため各車とも1両1か所に減少しています。
その荷物コーナーは2023年度サービス開始を目標にしたもので現在は使用不能、業務用スペース扱いとしています。
洋式便所は山側に2か所設置、N700A(1000・4000番代)に続き温水洗浄便座を採用しています。縦方向に濃色を用いるなどしたためか、従来に比べ洗練された印象。
男子小用便所は海側車端部に1個設置(外観写真は1号車)。内部は白系でまとめ、手洗いや壁側の台も含めて曲線を描くデザインとしています。
喫煙ルームは3・7・15号車山側に各1か所設置。
N700A(1000・4000番代)の途中までは3・15号車海側にも喫煙ルームがありましたが、本形式では当初から業務用室としています。但し「授乳でのご利用を希望される方は乗務員にお知らせください」との表記があることから、機器室のような使い方では無さそうな雰囲気です。
■おまけ:グリーン車■
「リニア・鉄道館」で2021年1月まで開催予定の企画展『東海道新幹線 技術の進化』にて、N700Sのグリーン車・普通車(2人掛け)座席が1脚ずつ展示されています。グリーン車の乗車機会は中々なさそうなので、当面はこの展示座席をご紹介。
座席は2人掛けの1種類のみ。N700系に続き「シンクロナイズド・コンフォートシート」と称する座面チルト機構付き、本形式ではリクライニング回転中心が踝になるよう設計されているようです。肘掛は普通車同様従来に比べ曲線的な印象で、樹脂部品はやはり白っぽい色。リクライニングは両端肘掛上面のレバーで、中間肘掛の前面にコンセント、内側には読書灯およびレッグウォーマーのボタンで操作しますが、この辺りの配置はN700系と大きく変わっていません。モケットは茶系で格子模様が入っているほか、背摺りは枕カバー下端当たりから明るい色にグラデーションしまた戻っていくのが良いアクセントになっています。
ところでここの展示座席、普通車の方も含めてリクライニングの復帰が驚くほど渋く気になりました。設置から何年も経っている訳で無し、加えて昨今の情勢から入場者で混み合うような状況も無いかと思いますが状態が悪いようで、グリーン車用の方に至ってはレバー操作だけではほとんど動かず手で戻す必要があります。
座席背面にはテーブルの他普通車同様フックを設置。量産先行車ではフックやポケットも含め樹脂製のパネルに取り付けられていましたが、背摺りとパネルとが擦れてしまうことが判明したために廃止されたとの由。なおテーブル背面には何も貼ってありませんが、実車は案内ステッカーが貼ってあります。
座席系 |
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