JR東海 キハ85系(「ひだ」仕様)

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1987年の分割民営化当時、高山線特急「ひだ」紀勢線特急「南紀」は製造後25年以上が経過したキハ82形が使用されていました。ただ老朽化が進んでいたほか出力も非力なことこの上なく、それを置き換えるべくJR東海最初の新形式として1988年に登場したのがキハ85系です。
車体は前頭部を鋼製とした他はステンレス製で腰板にコーポレートカラーの橙帯を巻いたシンプルなデザイン、窓を可能な限り大きく取り「ワイドビュー」の愛称を付与。またカミンズ社製の大出力エンジンを搭載点も特徴で、車体の軽量化も相俟って電車にも劣らない加速度と電車並みの最高速度120km/h運転を実現。以後のJR東海の車両の礎となった形式と言えましょう。

1988年に量産先行車が登場し翌年「ひだ」に先行投入、1990年に「ひだ」全列車を置き換えました。また1992年には「南紀」全列車を置き換えましたが、この時増備されたのが全て「ひだ」とは異なる車種だったことが後の組成の複雑さを生むことになります。当初「ひだ」「南紀」で分離していた車両運用も需給に応じて混成するようになり現在ではお構いなしの複雑な組成と運用になっています。
名古屋・大阪~高山・飛騨古川・富山間「ひだ」と名古屋~紀伊勝浦間「南紀」で活躍を続けていますが、製造から30年が経過し2022年からは後継のハイブリッド車HC85系への置き換えが開始されます。

★「南紀」用として登場した車両(灰色のモケット)はこちらから


■客室(普通車)■

85AF-車内全景赤85AF-車内全景青

まずは車内全景から。「ひだ」用として登場した車両の普通車は形式を問わず車番が奇数の車両は左の赤系、偶数の車両は右の青系モケットを使用しています。

85AF-デッキ仕切85AF-デッキ仕切2

デッキ仕切は天地寸法が大きく上下を丸くした仕切戸の窓が特徴。右写真は後年本格的な車椅子対応設備を設けたキハ85形1100番代のデッキ仕切で、扉の幅を880mmと広く取りました。また更に後年非常梯子を設置しています。

85AF-中間仕切

キロハ84形のグリーン車との仕切戸だけは丸を縦に3つ並べた窓にしています。

85AF-乗務員室仕切185AF-乗務員室仕切2

乗務員室仕切は窓を大きく取り前面展望を確保、左は非貫通型・右は貫通型の様子です。一番の相違点は仕切戸の構造でしょうか、前者は開き戸なのに対し後者は引戸で幅も異なります。その影響もあるのか窓回りの造りも異なり、制約の少ない非貫通型の方は窓枠を極力細くしており「ワイドビュー」の名に違わず移り行く風景を最大限楽しむことが出来ます。

85AF-仕切テーブル

仕切部は折り畳み式テーブルとフットレストを設置。

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仕切上にはLED式の情報案内装置を設置、ただこれも設置場所に応じ2種類あるのが特徴です。先に横長のタイプから、近年は中央付近に設けた時計を廃した車両もあるようです。

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一方こちらは内容こそ先述のものと同じながら、上下2段に振り分けたタイプ。フリーパターン表示では列車案内のほか自社商品の情報等が流れます。

85AF-天井

天井はカバー付き照明を中央寄りに配置しています。この時期の車両には珍しく、或いは意図あってのことなのか中央が一段張り出した逆台形のような形になっているのが特徴です。

85AF-床

床はカーペット敷、座席部分は通路から200mm高い位置にあります。登場時の鉄道雑誌では「ハイデッカー」と表現されている記事も見掛けましたが、それは些かオーバーなような…

85AF-窓

最大の売りである窓は縦950mmと大きなもの、座席部の嵩上げもあって窓の下面と肘掛上面がほぼ同じ高さになっています。カーテンは横引き式です。

85AF-2人掛け85AF-2人掛け展開

座席は2人掛けのリクライニングシートが並びます。モケットは冒頭にも記した通り車番の奇偶で赤と青の2色を用意した点が特徴です。号車の奇偶でモケット色を分けた100系新幹線を意識したのかもしれませんが本形式では車両を跨いで移動する機会も少ないと思われ、変化を持たせる以上の意味合いは無さそう。

背摺り・座面ともバケット形状が強めで、詰物の構成の関係か頭部回りが独立しているように見える点も特徴です。シートピッチは1000mmを確保、JRの特急型ではかなり余裕のある数値ですが以後同社の標準となりました。

85AF-2人掛け背面

座席背面は樹脂パネルで覆われており、テーブルとポケットを設けています。テーブル背面には近年運行情報サイトへのQRコードが描かれたステッカーが貼られています。

85AF-フットレスト185AF-フットレスト2

両グループとも100系新幹線に倣ったのか跳ね上げ式フットレストも設置されています。左が一般的な形状、右は第1陣として登場したキハ85-2で撮影したもので、足を載せる面の形状が異なっています。

85AF-1人掛け赤85AF-1人掛け青展開

キハ85形100番代(貫通型先頭車)は2003年から本格的な車椅子対応設備を設置するため改造を実施、車椅子対応席を設置しました。座席は1人掛けで、跳上肘掛と車椅子固定金具を設置しています。

85AF-1人掛けテーブル

座席部分を200mm嵩上げしている本形式、車椅子対応席は当然通路と同レベルに設けられていますので境目にはこんな仕切が設けられています。自由席に使用されることもあるため「車椅子のお客様優先席」というあまり見かけないステッカーも貼ってあります。


■車内(グリーン車)■

85AG-車内全景

車内全景です。8列32席のコンパクトな空間は落ち着いた配色でまとめられていますが、3列の全室グリーン車キロ85形の存在も(それだけではありませんが)影響しハズレ感は否めません。

85AG-デッキ仕切85AG-中間仕切

グリーン室の両端です。左写真は車端部(デッキ)寄り、右写真は普通車との仕切です。いずれも化粧板は茶系、仕切戸は普通席と異なり円形の窓を縦に3個並べています。

85AG-仕切テーブル

仕切にもテーブルと足掛を設置。

85AG-天井

天井は普通車と同様の造り。

85AG-床

床は絨毯敷き。

85AG-窓85AG-読書灯

窓は普通車と同様高さ950mmの大きなもの。注目はカーテンで、陽を遮るカーテンだけでなくレースカーテンも備えています。荷棚は普通車と類似の構造ながら、読書灯を設置しています。

85AG-2人掛け85AG-2人掛け展開

座席は2人掛けの1種類のみ。赤や青と派手な色合いの普通車から一転、グリーン車に相応しくベージュ系の落ち着いた色合いとしています。シートピッチは1160mmと国鉄時代からの標準的な寸法、普通車に無い設備としてはインアームテーブル程度でしょうか。以前はオーディオパネルもあったようですが、現在は痕跡すら見られません。
掛け心地は決して悪くなく4列グリーン車にしては出来の良い部類に入るかと思いますが、評価が低くなりがちな一因として、明らかにレベルが上振れしているキロ85形の存在も大きいかと思います。ただ座席自体の横幅の不足はどうしようも無いにしても、長さ・幅とも貧弱な上両側と角度を合わせられない中央肘掛は何とかならなかったかなあ、とも思います。それから枕カバーの縫製が雑なのか糸解れが目立つのはちょっと…

85AG-2人掛け背面

座席背面です。ポケットはモケット製、テーブルは普通車と同一品と思われ製造時期もあって手前に引き出すことはできません。フットレストは収納状態が土足面で床と同じカーペット張り、展開するとモケット張りの土足禁止面が現れます。


■デッキ・その他設備■

85-扉

扉は低いホームに対応したステップを設けていますが、外観で分かるレベルの大きさでは無いためホームとの段差は多少残ってしまいます。「ひだ」用はデッキの黄色い化粧板が特徴、この色のチョイスは時代を感じます。

85A-トイレ185A-トイレ2

便洗面所は基本的に先頭車のみ設置。元々は0・100番代とも和式トイレを設置していましたが、全車が車椅子対応化された100番代に続き近年では外国人観光客の増加に伴い0番代の一部も洋式化改造されました。洋式化改造された0番代は半数弱あるようですが、写真は原型を保つ0番代の様子です。

85AG-トイレ185A-トイレ3

キハ85系で唯一中間車にトイレがあるのは半室グリーン車のキロハ84形で、製造時から洋式便器を設置しています。化粧板の色は普通車に似た色ながら落ち着いたブラウン系。

85AG-洗面所

洗面所は自動水栓式で温度も自動調整されます。

85-トイレ(車椅子対応)85-トイレ(車椅子対応)2

キハ85形1100・1200番代の車椅子対応トイレです。元々の便洗面所は全て撤去、通路を洗面所があった側に寄せ、自動扉を設けた大型のトイレを設置しました。

85AF-洗面所(車椅子対応)

では洗面所は…と言うと通路を挟んだ反対側に設置されました。外観は極力影響の無いよう処理されていますが、このために座席を1列潰しています。1100番代の場合は3列12席を潰し車椅子対応席2席と洗面所を設けた格好で、車椅子対応の大変さを思い知らされます。

85-自動販売機85A-電話跡

キハ84形0番代には自動販売機と公衆電話を設置していましたが、例によって後者は既に撤去済み。左写真の手前寄りには車販準備室が設けられていますが、車内販売の営業は既に終了しています。

85AF-運転台

貫通型先頭車の運転台はコンパクトにまとめられており、中間に入る際は運転台部分を仕切ることが出来ます。前面展望という点では一段劣る貫通型先頭車ですが、それでも前面展望に支障しそうな部分は全てガラスを用いています。


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